東京高等裁判所 平成9年(ネ)3462号 判決 1999年2月24日
主文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文と同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
以下に記載するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決15頁6行目の「換言すれば、原告が右借地権を失ったか否か。」を削り、同10行目の「べきである。」の次に「前記のとおり被控訴人が本件建物に対する本件根抵当権設定登記の不実を対抗できない以上、本件土地の借地権にも本件根抵当権の効力が及ぶものである。」を加える。
第三 当裁判所の判断
一 被控訴人の本件建物の所有権取得の有無(争点1)及び民法94条2項の類推適用等の有無(争点2)について
次のとおり記載するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第三 争点に対する判断」の一及び二に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決19頁7行目及び8行目を削る。
2 同22頁3行目の「したがって、」を「そこで、」に改め、同28頁2行目の「本件保存登記」の次に「及び田村名義の所有権移転登記」を加え、同3行目の次に改行のうえ次のとおり加える。
「 被控訴人は、谷山が本件根抵当権を設定する際、敷地の利用権について調査していれば、本件建物の真の所有者が〓之助であることを知り得たはずであるから、谷山は、田村に所有権があると信じたことにつき過失があった旨主張する。しかしながら、前記のとおり、本件建物は、建築時から約11年を経過して存続していたものであり、そのことからしても、何らかの土地利用権を伴っていることが推認されたというべきであるから、本件建物の登記の記載を信じた谷山に過失があったということはできず、被控訴人の右主張は採用することができない。」
二 控訴人が本件土地の借地権を取得したか否か(争点3)
控訴人は本件土地の借地権は、本件建物に対する従たる権利であるから、本件根抵当権の効力は本件土地の借地権にも及び、本件競売により、本件建物の所有権とともに、右借地権をも取得したと主張する。
そこで検討するに、建物を所有するために必要な敷地の借地権は、建物所有権の従たる権利としてこれに付随し、これと一体となって一の財産的価値を形成しているものであるから、建物に根抵当権が設定されたときはその借地権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきである。したがって、借地人所有の地上建物に設定された根抵当権の実行により、買受人がその建物の所有権を取得したときには、従前の建物所有者との間においては、特段の事情のない限り、右建物に必要な借地権も買受人に移転する(最高裁昭和40年5月4日第三小法廷判決・民集19巻4号811頁参照)。
そして、この理は、真実の建物所有者で、その敷地の借地人である者が、その建物の不実の保存登記を利用され、所有権移転登記を経由した建物に設定された根抵当権の実行による買受人に対し、民法94条2項、110条の類推適用により、建物所有権をもって対抗することができない場合も同様であると解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記認定の事実によると、田村は、本件建物について、新三郎名義の保存登記を前提とし、新三郎から所有権移転登記を経たうえ、谷山との間で昭和62年10月24日に本件根抵当権を設定し、同月26日その旨の登記をしたものであり、谷山は、その時点において、本件保存登記及び右所有権移転登記を信頼したことにつき善意・無過失であったところ、同人の取得した本件根抵当権の効力は、本件建物のみならず、本件土地の借地権にも及んでいるから、その後の本件根抵当権の実行に基づく競売によって、買受人である控訴人は、平成6年11月15日に本件建物の所有権を取得した(同月16日に所有権移転登記を経由)のみならず、本件土地の借地権をも確定的に取得し、一方、〓之助及びその承継人である被控訴人は、右借地権を喪失したものというべきである。
なお、控訴人が本件建物所有権の従たる権利である本件土地の借地権を取得するか否かは、本件根抵当権の効力が本件土地の借地権に及ぶか否かによって定まるのであり、競売手続上の現況調査結果や物件明細書の記載内容によって左右されるものではない。
以上の次第で、控訴人は、競売により、本件建物の所有権のほかに、本件土地の借地権をも取得したものであり、一方、〓之助及びその承継人である被控訴人は、右借地権を喪失したものであるから、控訴人に対し、右借地権の帰属を主張することができないというべきである。したがって、右借地権を有することを前提とする被控訴人の予備的請求は、その前提を欠き理由がない。
三 よって、これと一部異なる原判決を変更し、被控訴人の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河野信夫 裁判官 宮﨑公男 坂井満)